●父の顔
「そんな字も読めないのか」と言った父に、私は、「学校で習っていない字だから、読めないのは当たり前だ」と言い返しました。
今から40年以上前の、私が高校生だった頃のことです。
それを聞いて憮然とした父の顔を、私は今も忘れることが出来ません。むつかしい字の読めなかったことに、憮然としたのではありませんでした。字の読めないことを学校のせいにして、それを当然のこととしたことに言葉を失ったのです。
「むつかしい字というものは、自分で読む気にならなければ、いつまで経っても読めないぞ」。身の上に不都合なことが起きてきたとき、私は今でもあの顔に教えられます。
和泉正一