●嫁のみそ汁
嫁のみそ汁
幸子さんは新婚旅行から帰ると、すぐ、二、三日の予定で夫の広規さんの実家へ挨拶に行きました。夫の両親は大変に喜び、「ゆっくりしなさい」と言って、あたたかく迎えてくれました。
嫁として迎えた最初の朝、早く起きて、朝食の用意を手伝い、みそ汁を作りました。
食事が始まると、お父さんが、「きょうのみそ汁は・・・」と言いかけ、すぐにお母さんが、「きょうのみそ汁は、幸子さんが作ってくれたんですよ。おいしいですね」と言葉をさえぎるように言ったのです。みんなは、黙って朝食を頂きました。
食事が終わって、後かたづけをしていると、夫の弟が起きて来て、食事を始めましたが、「みそ汁がすごく辛い」と言うのです。その時初めて、味付けが合わなかったのだとわかりました。幸子さんは、辛いのなら辛いと正直に言ってくれなかった両親たちにショックを受け、それからというもの、両親が冷たい人たちに思え、一人で悩み続けたのです。
そんなある日、夫のはからいで、里帰りをした幸子さんは、胸に秘めていた思いが一気にはち切れたのでしょう、母親の顔を見たとたんに泣き出してしまいました。
しばらくして、みそ汁の一件を打ち明け、「みそ汁が辛いのなら、そう言ってくれればいいのに、広規さんの家の人たちは、みんな、本当のことを言ってくれない冷たい人ばかり・・・」と涙ながらに訴えたのです。
するとお母さんは、「嫁いで間もないあなたに、心遣いをしてくださり、本当にありがたいね。『こんな辛いみそ汁飲めたもんじゃない』と言われても仕方ないものを・・・。何も言わず食べてくださった広規さんやご両親に感謝しないとね。お母さんは安心したわ。」とやさしく微笑みました。
幸子さんは、お母さんと話していくうちに、だんだんと、自分の受け止め方の足らなさに気づき始めたのでした。
人を思いやる心はとても大切なことです。しかし、私たちは、人を思いやることよりも、人の思いやりを受け止めることのほうが、どうも苦手なようです。人の思いやりを、素直に受け止めることのできる人間になりたいものです。