●古い机
古い机
我が家には、夫が愛用している古い机があります。その机は父から母、そして夫へと受け継がれ、もう六十年以上も使われています。私がいくら、「そんな古い机、もう捨てて、新しいのにしたらどう」と言っても、夫は「これでいい、これがいいんだ」と言って、決して新しい机にしようとしません。
実は、それにはこんな訳があったのです。夫の父親はとても器用な人だったようで、ついたてや本箱などいろいろなものを作っており、この机も父親の手作りのものだったのです。夫は幼い時に父親を亡くしているので、顔も覚えておらず、父親との思い出もありません。父親の仕事の跡を継ぐようになった夫にとってこの古い机は、父親を偲ぶ数少ないものなのです。
ある時、夫が、「いろいろ苦しいことや難しい問題に出会って、挫折しそうになった時など、父親に縋るような思いでこの机に話しかけて仕事をしてきたんだ。これは、父につながる世界中でたった一つしかない大切な机だから、古くてもなかなか捨てられないんだ」と心の内を話してくれました。
私は、古い机にそんな思いが込められているとは知らず、何でも新しくしようとしてきた自分を恥かしく思いました。そして、「古い新しい」、「高い安い」、「大きい小さい」などの外見だけで、人や物や事柄などを判断していては、真実や人の心の内を知ることは出来ないと、改めて我が家の古い机から教えられました。