●母子草(ははこぐさ)
母子草(ははこぐさ)
高校生の優子さんは、最近元気がありません。毎日、大学受験のための塾通い。楽しそうにしている周りの人たちがうらやましく見え、だんだんと自分の境遇や自分自身をちっぽけで惨めに感じていたのです。
そんなある日の夕方、いつものように塾を終えた優子さんは、帰り道に、近所のおばあさんとバッタリ会い、いっしょに帰ることになりました。
○
「優子ちゃん見てごらん。こんなところに、花が咲いているよ。」
おばあさんの指さす方をみると、アスファルトの隙間から、小さな花が顔をのぞかせています。
「あら、ほんと。小さいけど、かわいい花ですね。」
「これは、母子草っていうんだよ。たぶん種が風にでも飛ばされて、こんなところにきちゃったんだろうねえ。大きな野原にでも飛ばしてもらえばよかったのにねえ。」おばあさんは、遠くを見ながら言いました。
「そう思うと、何だかかわいそう。」
するとおばあさんは「でもねえ、こんな場所でも、この母子草は立派に花をつけているよ。野原に咲いた花とこの花と、どっちがすばらしいと思う?」と聞きました。優子さんには答えが見つかりません。
「同じだよ優子ちゃん。みんな天地の神様から頂いたいのちの力があるから、どんな所にでも、根を伸ばし、花をつけ、実を結んでいけるんだよ。・・・人間も同じようにいのちの力を頂いているんだけど、そのことに気づかないで、勝手に悩んだり苦しんだりしている人もいるねえ。」
優子さんは、まるで自分のことを言われているように感じました。そしてだんだんとこれまでの思いが、とるに足らないちっぽけなものに思えてきたのです。
「いのちの力かあ。おばあちゃん、私にもあるかなあ?」
「そりゃあ、あるとも。」
気がつくと、あたりはきれいな夕焼けです。夕日に照らされて草や木や山、そして街並みまでもが、それぞれ自分のいのちの力を輝かせているように見えます。
「私もがんばらなくっちゃ。」優子さんは心からそう思いました。